ART(生殖補助医療技術)における排卵誘発について

ART(生殖補助医療技術)における排卵誘発について


 ヒトでは基本的に毎月1個の卵胞が発育し、その中にある1個の卵子が卵巣から排卵されます。
 卵胞の発育と排卵には、脳下垂体から分泌される2種類のゴナドトロピン、FSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)が関与しています。
FSHは卵胞を発育させて卵巣ホルモン(エストラジオール)を産生するように作用します。LHは、エストラジオール値がある一定のレベルに達するとそれが引き金になって大量に脳下垂体から放出されるLHサージが起こります。このLHサージは、成熟卵胞(直径約20mm)の中の卵子を受精可能な成熟卵子に変化させ、その卵子のみLHサージ開始から約36時間で卵巣から排卵させます。体内にはこのような機構が存在し、排卵された成熟卵子が卵管で精子と出会い受精します。ARTにおいてもこれは同じで、成熟卵子のみが受精できます。



 ARTでは、排卵誘発剤を使用して卵胞刺激を行い、複数の卵胞を育て成熟卵子を採取します。LHサージの開始時期が重要となるので、LHの代わりとなるhCGを注射し、注射後36時間で排卵直前の成熟卵子を採卵します。
 また、アゴニストの点鼻薬やアンタゴニスト注射などのGnRHアナログという薬剤を使用して体内のLHサージを抑えることが可能です。これがロング法、ショート法、アンタゴニスト法と呼ばれる排卵誘発法です。GnRHアナログを使用すると脳下垂体からのFSHの分泌も抑制され、卵胞の発育も抑制されます。その為、FSH製剤で卵胞を発育させる卵胞刺激が必要となります。
 FSH製剤を使用しない、あるいは少量使用する低刺激法や自然周期法の卵胞刺激法も存在します。経腟超音波検査と血中エストラジオール値、LH値を測定し、卵胞の発育をモニタリングしながらLHサージが開始される前にhCG注射や点鼻薬を使用し、LHサージを起こします。

 卵胞刺激の方法は多数存在しますが、患者さんの卵巣の予備能や脳下垂体ホルモンの基礎値を測定し、個々の患者さんに適した方法を選択していきます。

排卵誘発剤のリスク

 ARTに使用される注射薬剤は、注射部位に軽い痛みや発赤を伴うことがありますが、アレルギー反応を起こすことはほとんどありません。
 また、排卵誘発剤、特にゴナドトロピン注射薬剤を使用した際に、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)が起こることがありますが、この頻度はARTを受けた女性の1%未満です。症状が悪化してくると、脱水症状(喉の渇きなど)、腹部や胸部の水の貯留(腹水・胸水)、血液凝固系の異常による血栓塞栓症、腎機能障害など重篤な症状をもたらすことがあります。その際には、提携している病院を紹介し治療をしていただきます。

採卵方法

 採卵はおなかを切るような手術ではありませんが、手術室と同じ清潔な採卵室という部屋で行います。医師は経腟超音波で卵巣の卵胞や血管の位置を確認しながら、採卵針で膣の方から採卵をします。採卵針の太さは注射針とほぼ同じ太さです。経腟超音波で見える卵胞を穿刺し、卵胞液と共に卵子を回収します。1個の卵胞を吸引し終えると次の卵胞へというように、1か所の穿刺部から複数の卵胞を穿刺していきます。当院では静脈麻酔を使用し、軽く眠っている状態で採卵を行います。採卵に要する時間は、穿刺する卵胞の数が多くなるほど長くなりますが、約15分で終了します。その後ベッドで休み、出血がないこと、麻酔が完全にさめたことを確認してから帰宅していただきます。

採卵のリスク

 採卵は膣から超音波の器具を挿入し、長く細い針で卵巣を穿刺して行いますが、静脈麻酔を使用しても若干の不快感・疼痛を伴うことがあります。卵巣からの出血はわずかですが、ごく稀に輸血を必要とすること、また卵巣に近い膀胱や腸、血管が傷ついた場合には外科的処置が必要なことがあります。経腟超音波下での採卵により感染を起こす可能性はありますが稀です。ただし、感染を起こした場合には重症化する場合もありますので、早期に対応するなどの注意が必要です。

 

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