ART(生殖補助医療技術)とは?

ART(生殖補助医療技術)とは?

体内での妊娠成立過程では、卵巣から排卵された卵子が卵管采で卵管内にピックアップされ、膣内で射精された精子が卵管に達し、卵管内で卵子と精子は受精します。そして、受精卵は卵管内を5日間ぐらいかけて移動したのち子宮に到達し、子宮内膜に着床して妊娠が成立します。このいずれかの過程がうまく機能せず、体内での受精が困難になった患者さんに対して、配偶子である精子や卵子を体外に取り出し、体外で受精させる技術をART(生殖補助医療技術:Assisted Reproductive Technology)と言います。


体外受精の歴史

哺乳類の体外受精研究の歴史は古く19世紀ごろからと言われています。ヒトの体外受精(invitro fertilization ; IVF)の研究は1940年代から開始され、臨床応用がされたのは1971年からです。
9年間の不妊であったイギリスのブラウン夫妻は、1977年に、生物学者のRobert Edwards博士と腹腔鏡のエキスパートのPatrick Steptoe博士の元で体外受精を受け、1978年7月25日に2608グラムの女児を帝王切開で出産しました。これは世界初の体外受精児の誕生でPatrick Steptoe博士は名付け親となり、ルイーズ・ジョイ・ブラウンと命名されました。ミドルネームのジョイは「joy:喜び」です。これは博士が「世界中の人々と喜びを分かち合う」という意味でこのミドルネームを贈ったといわれています。

その後、多くの欧米諸国において次々と成功例の報告がされ、ルイーズの妹も体外受精で生まれ二人とも順調に成長し、のちに自然妊娠でわが子を妊娠出産しています。
日本でも1983年に東北大学医学部付属病院の鈴木医師らによって国内最初の体外受精児の誕生が報告されています。また、体外受精を成功させた生物学者のRobert Edwards博士は、2010年にノーベル医学生理学賞を受賞しました。
当時、博士らは「我々は、そんな大げさな挑戦を行ったわけではない。これまで、女性の体内で行われていた神秘的で未知なものであり、自然の神や摂理として人間が直接手をくだすことができなかった卵子と精子の出会いである受精を女性の体の外で行った。それだけのこと。
卵管が詰まっていたり切断されていたりして、自然な状態では卵子と精子の出会いの場がない女性への不妊治療として行われたにすぎない。」とコメントを発表しています。

当初の体外受精の採卵は、腹腔鏡下において行われておりましたが、経腟超音波の進歩により、現在行われている超音波ガイド下に穿刺し卵子を採取することが可能となりました。また卵巣を刺激するために、ヒト閉経期尿性ゴナドトロピン(hMG)を使用することによって複数の卵胞から、複数個の卵子を採卵することが可能となりました。

卵管性不妊症を対象に始まったART(生殖補助医療技術)でしたが、徐々に適応が拡大されていきました。精子の数が非常に少ない男性不妊症(重度乏精子症、精子無力症)の患者さんへの新たな受精方法として登場した技術が顕微授精です。顕微授精法の中でも1個の精子を用いた卵細胞質内精子注入法(intracytoplasmic sperm injection; ICSI)による児の誕生は1992年ベルギーの医師Palermo博士らによって行われました。これは、現在の顕微授精の中心的技術となっており、精子機能障害だけでなく、精巣内精子回収法などで得られた数少ない精子でも受精が可能となりました。

1989年から日本産科婦人科学会では毎年ARTで生まれた子供たちについて集計をしてきました。2017年のデータでは、体外受精などの高度生殖医療(ART)において、56617人が生まれたと報告があります。同年の総出生児数は941000人であり、これは出生児の割合が17人に1人、体外受精などの治療によって生まれたことになります。この割合は年々上昇傾向にあることがわかってきています。

ART(生殖補助医療技術)の対象

1.  卵管性不妊症:子宮卵管造影検査や腹腔鏡検査で卵管通過障害がある.
2.  男性不妊症:精子数が少ない、あるいは運動率が悪い
3.  子宮内膜症:長期不妊で子宮内膜症
4.  免疫性不妊:抗精子抗体陽性
5.  原因不明:1)人工授精を行っても妊娠に至らない
        2)原因不明(機能性不妊)など

 

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