受精卵の凍結保存について

受精卵の凍結保存について

 患者さんの中には、卵巣刺激によって卵巣がよく反応したくさんの受精卵が得られる方がいます。
そのような方では、受精卵を子宮に戻した後に複数個の余剰胚が生じてきます。
そこで、これらの受精卵を凍結保存し、融解胚を次周期以降に移植することにより、身体的、心理的、経済的負担の軽減につながります。
 体外受精治療での余剰胚を凍結保存することが可能となり、1983年に初めての凍結融解胚移植による妊娠・分娩が報告されました。


 体外受精治療が始められたころには、多くの受精卵を子宮に戻していたため多胎妊娠、特に三つ子や四つ子といった高度の多胎妊娠がみられました。
このような多胎妊娠では流早産の可能性が高く、それに起因した低出生体重児の増加が指摘されています。
多胎妊娠を避けるため、日本産科婦人科学会では体外受精治療で子宮に戻す受精卵の数を3個以内(1996年)、2008年からは原則1個と提言しました。

 受精卵の凍結は、受精卵を特殊な溶液に浸したのち、-196℃という超低温の液体窒素内で凍結し保存します。
液体窒素中に保存してあれば何十年も全く状態を変化させずに保存することができます。これは、食品を冷凍庫で保存する場合と異なり、保存時間が長くなるほど融解して生まれる出生児に異常が多くなるということはありません。

 胚凍結は当初は多胎妊娠を防止するために開発されました。
1回の採卵で多数の卵子が採取されて多数の受精卵が発育しても、移植する受精卵の個数を制限すれば多胎妊娠を防ぐことができます。
最近では、採卵で得られた受精卵をその周期では移植せず、全て凍結保存し次周期に移植する治療法を行っております(全胚凍結法)。

 凍結保存をした受精卵を移植するには、受精卵の日齢と子宮内膜の日齢をしっかりと合わせることが重要となってきます。
この調整の仕方は、ホルモン補充周期と自然排卵周期の2通りの方法があり、妊娠率に差はないとされています。

自然周期

 この方法は、排卵日からの日を数えることで胚移植日を決定していきます。基本的には自然の排卵を待ちますが、自力での排卵が難しい方などで、排卵誘発剤が必要になります。
この方法のメリットは、自然の排卵が起こることによって卵巣に黄体が形成され、妊娠維持に必要なエストロゲンやプロゲステロンが自ら分泌されるため、のちにご紹介するホルモン補充周期よりは黄体補充を比較的短時間で終了することができます。
また、デメリットとしては排卵日が基準となって胚移植日を決定する為、排卵日を特定するための通院回数が多くなる可能性があること、排卵日がいつになるかわからないので胚移植の予定が直前まで定まらないことがあります。

ホルモン補充周期

 ホルモン補充周期は、排卵を起こさずに子宮内膜のみをエストロゲン製剤で厚くしてから胚移植をおこないます。この方法のメリットは、あらかじめ先に胚移植日を決定して、そこから逆算して薬剤を投与しますので、胚移植の予定を2~3週間前に決めることができ、その間の通院回数も1~2回と非常に少なくて済みます。
また、日程調節が厳密なため、排卵周期よりも子宮内膜と胚の日齢のずれが小さいことが特徴です。
デメリットとしては、排卵が起きていないので黄体が形成されません。
この場合、妊娠維持に必要なエストロゲンやプロゲステロンが妊娠初期には自力ではほとんど分泌されません。
その為、妊娠成立後も8~10週ごろまで黄体補充療法が必要になってきます。

 

 凍結保存法は、様々なメリットがある方法ですが、いくつか注意をしなければならない点があります。
一度凍結して融解するという、物理的に大きな変化を受精卵に起こすため、一定の確率(約3%)で受精卵が凍結融解後に変性してしまうことがあります。
また、受精卵の保存期間は1年間です。期間内に更新の手続きをしていただければ、母体の生殖年齢を超えない限り、毎年延長することができます。

ラボチームスタッフ

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