甲状腺疾患と不妊症

 甲状腺ホルモンは卵胞の成長に必要なホルモンで、十分な甲状腺ホルモンがないと卵胞は成長せず排卵が起こりません。甲状腺機能が亢進すると排卵までの期間が短くなりやすく、甲状腺機能が低下するとなかなか卵胞が成長せず無排卵、無月経が生じやすくなります。


甲状腺とは?

 甲状腺とは、いろいろな臓器がスムーズに働くために必要な甲状腺ホルモンを産生しているところです。首の下方についている小さなハート型の臓器です。甲状腺ホルモンが正常範囲にあることによって、様々な臓器がバランスよくスムーズに働き、元気に生活することができます。
 甲状腺からは主にサイロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)という2つの甲状腺ホルモンが出ています。甲状腺ホルモンはほとんどがタンパク質に結合しています。結合していないホルモンが効果を発揮します。

甲状腺ホルモンの調整

 甲状腺は正常の状態では、脳から指令を受けて甲状腺ホルモンの量を調整しています。一般的に甲状腺の機能をみる時は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)とFT4(遊離T4:freeT4)、FT3(遊離T3:freeT3)というホルモンを確認します。TSHは脳の下垂体というところから出て、甲状腺にホルモンを出しなさいと命令するホルモンです。FT4、FT3はともにタンパク質に結合していない甲状腺ホルモンです。視床下部や下垂体が正常であれば甲状腺ホルモンの過不足はTSHの値をみることで判断することができます。
 体が甲状腺ホルモンが足りないと判断すれば、より多くの甲状腺ホルモンを出そうとしてTSHが上昇し、逆に甲状腺ホルモンが多いと判断すれば、もう甲状腺ホルモンはいらないとTSHが低下します。

甲状腺機能低下症とは

 甲状腺はいろいろな臓器がスムーズに働くために必要なホルモンです。甲状腺ホルモンが少ないと、臓器の働きが鈍くなります。

  • ・脳が働かず眠気が強くなる
  • ・物忘れが多くなる
  • ・話し方がゆっくりになる
  • ・やる気が出ない
  • ・腸が働かず便秘になる
  • ・体温を保てないため寒がりになる
  • ・卵巣の機能が低下する
  • ・心臓の動きがゆっくりになる
  • ・足やまぶたがむくむ
  • ・髪の毛や眉毛が薄くなる

などの症状が出ることがあります。(すべての症状が出るわけではありません)

甲状腺機能低下症と卵巣機能

 治療を要するような甲状腺機能低下症があると、月経がなかなか来ないことがあります。一方で軽度の甲状腺機能低下症があっても月経には影響を与えず、通常通りの月経が来ていることも珍しくありません。また、甲状腺機能低下症では、黄体機能不全が高頻度に生じることも指摘されていることから、甲状腺ホルモンは卵胞の成長や黄体機能のために必要なホルモンではあるけれど、ある程度ホルモンがあれば問題ないということが推測されます。
 妊娠すると甲状腺ホルモンの必要量が増えるため、妊娠初期あるいは妊娠前に甲状腺機能低下症がないか確認し、甲状腺機能低下症がある場合はしっかり甲状腺ホルモンを補充しておくことが重要になります。

甲状腺機能亢進症とは

 甲状腺は、ふだん下垂体から分泌されるTSHが、甲状腺にあるTSH受容体というところにくっつくことで甲状腺ホルモンを出しています。体はTSHの量を調整することで、甲状腺ホルモンを適切な値に維持しています。TSH受容体を勝手に刺激するTSH受容体抗体が体内にできる病気がバセドウ病です。
 バセドウ病の発症は、体を守る免疫システムの異常が関係しています。免疫はウイルスや細菌などの外敵に対する抗体を作ることによって体を守る仕組みです。しかし、外的ではなく自分自身の身体を攻撃する抗体(自己抗体)が作られてしまうと、それによって病気が引き起こされることがあります。
 バセドウ病になると月経周期が短くなったり、量が少なくなったりします。排卵障害を起こすこともあります。また、妊娠中はバセドウ病を治療しないと流産、早産、妊娠高血圧症を生じやすくなり、胎児に甲状腺機能亢進症を生じることがあります。

薬について

 甲状腺疾患の薬には、甲状腺ホルモンが低下した時に用いる甲状腺ホルモン薬と、亢進した時に用いる抗甲状腺薬の2種類あります。
 甲状腺疾患と診断された場合は、主に薬物療法により甲状腺機能がコントロールされてることを確認してから不妊治療を行います。

院長 保坂 猛

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