人工授精の成功率をあげるポイントは?メリット・デメリットも紹介

人工授精(AIH)は、妊娠を希望して不妊治療をする方にとって、タイミング法の次に選択することの多い方法です。
女性の負担も少なく、自然妊娠に近い形での妊娠が可能です。
一般的に成功率は1回あたり5〜10%とされ、高くはないものの、人工授精の成功率をあげるポイントを知っていれば、妊娠が成立する可能性を上げることができるかもしれません。
(参照:「人工授精」公益社団法人 日本産婦人科医会)
この記事では、人工授精で妊娠するために知りたいポイントや、人工授精のメリット・デメリットについて詳しく解説します。
人工授精に向いているか迷っている方や、成功率を上げるためにできることを知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
人工授精とは?

人工授精(AIH)とは、あらかじめ採取しておく精子を排卵に合わせて子宮内に注入する不妊治療です。
精子を注入する部位は腹腔内や卵管内のケースもありますが、人工授精というと一般的には子宮腔内を示すことが多いです。
ここでは、人工授精の基本や種類、向いている方、向いていない方について解説します。
人工授精の基本
人工授精では、精子を直接注入するため、卵子と出会って受精しやすくなります。
通常、精子が卵子に出会うためには卵管を通りますが、その距離を短縮することで受精の確率が高まり、それ以降の妊娠過程は自然妊娠と同じです。
つまり、人工授精は精子と卵子が出会うチャンスを高める方法であり、妊娠が保証されるものではありません。
そのため、人工授精は回数を重ねる可能性も高く、治療に時間がかかるケースもあるでしょう。
35歳以下では1回で成功する例もありますが、4〜6回の治療を行うことが多いです。
人工授精に向いている方
妊娠を望み人工授精を希望していても、人工授精に向いている方と向いていない方がいて、適していない場合は他の治療方法を検討することもあります。
人工授精に向いている方は、以下の通りです。
タイミング法で妊娠が成立しなかった
タイミング法は最初のステップとして取り組む方が多い方法ですが、妊娠しなかった場合は人工授精に進むことを検討します。
また、タイミングを合わせて性交渉するのが難しい状況の方も、人工授精の方が向いている可能性が高いでしょう。
性交障害
性交障害がある方は、人工授精に向いています。
男性の場合はEDの治療中、射精不全など、女性の場合は性交痛などで、性交渉を行うのが難しいが射精自体はできるケースです。
精液検査の結果が基準値に満たない
男性の精液検査の結果が、基準値に満たない場合は自然妊娠が難しいため、人工授精が適しています。
検査項目 | 下限基準値 |
---|---|
精液量 | 1.4ml以上 |
総精子数 | 3,900万/射精以上 |
精子濃度 | 1,600万/ml |
前進運動率 | 30%以上 |
総運動率 | 42%以上 |
正常精子形態率 | 4%以上 |
白血球数 | 100万/ml未満 |
WHO laboratory manual for the examination and processing of human semen, 6th ed
総精子数が3,900万個未満だと乏精子症、精子運動率と前進運動率が基準値に満たないと精子無力症、精液中に精子がないと無精子症などが疑われます。
ただし、どれかが下回っていても、他の項目が良好であれば自然妊娠の可能性もあるため、結果だけで妊娠を諦める必要はありません。
パートナーとはもちろん、医師ともよく相談して、適切な治療を行うことが重要です。
精子と頸管粘液の相性がよくない
頸管粘液とは、いわゆるおりもののことです。精液との相性がよくないと妊娠が成立しないことがあります。
精液検査で異常がないにもかかわらず、頸管粘液の中で精子の動きが悪い場合は、精子を攻撃してしまう抗精子抗体を持っているかもしれません。
女性だけでなく男性も自己抗体として発生するため、性交後検査(フーナー検査)を受けて結果が不良だった場合、抗精子抗体検査を受けて免疫反応を調べましょう。
不妊の原因が明らかではない
不妊検査を受けても異常が見つからず、原因が明らかでない場合は、人工授精が有効なケースがあります。
女性の年齢にもよりますが、タイミング法で半年以上妊娠しないときは、検査をして人工授精の適応かを診断します。
一部は女性側の不妊や原因不明の場合もありますが、男性不妊の場合、体外受精に進む前に人工授精を試してみてもよいでしょう。
人工授精に向いていない方
人工授精に向いていない方は、以下の通りです。
- 高年齢の女性
- 卵管や卵巣に問題がある
- 精子の運動率が低い
- 精子に問題がない など
女性の年齢が40歳を超えている場合は、卵子の老化により染色体異常や妊娠に適した質の良い卵子が少なくなっている可能性が高まります。
卵管が閉じていたり、排卵に問題があったりするときも、人工授精による妊娠が難しいため、体外受精に進むことも検討が必要かもしれません。
精子の状態が著しく悪い場合は、自力で卵子までたどり着くことができないことから、体外受精が推奨されます。
また、精子に問題がなく状態が良ければ、自然妊娠やタイミング法でも妊娠の可能性があるため、人工授精は必要ないと判断される場合があります。
人工授精の成功率をあげるポイント

人工授精の成功率をあげるためにできることは、難しいものではありません。
医師の治療を受けるものや、意識することで変えられる習慣もあります。
ここでは、人工授精の成功率をあげる方法や注意点などのポイントについて、詳しく解説します。
人工授精の成功率は?
人工授精の成功率は1周期で5〜10%とされていて、高くはありません。
そのため、一般的に3〜6回の実施が推奨されています。
3〜4周期人工授精を行っても妊娠が成立しない場合は、次のステップに進むことも検討する必要があります。
早めに不妊治療を始める
人工授精の成功率は女性の年齢で変わるため、なるべく早めに不妊治療を始めることが重要です。
男性の精子は年齢に関係なく常に新しく作られていますが、女性の卵子は胎児期に作られて新しく生産されることはありません。
排卵される度に卵子は減少し、35歳を過ぎると老化や染色体異常も進み、妊娠率は低下して流産率は高くなります。
卵子や精子の質の向上
卵子や精子の質が向上すると、人工授精の成功率をあげられます。
バランスの良い食事や適度な運動、良質な睡眠など、生活習慣を整えることで、体内のホルモンバランスも整って卵子や精子の質の向上につながります。
喫煙や飲酒を控えるのも、コンディションを整えるために有効です。
また、男性側の問題として精索静脈瘤がある場合、治療により精子の質を高められます。
排卵日を把握する
人工授精の成功率をあげるためには、排卵日を把握することが重要です。
精子と卵子が出会う適切なタイミングで、排卵に合わせて精子を注入する必要があるのです。
基礎体温や排卵検査薬などで排卵日の予測をすることもできますが、人工授精をするためにはクリニックで超音波検査やホルモン検査を行うと、より正確な排卵日が予測できます。
その結果、卵胞の成長が思わしくなかったり、排卵が起きにくかったりする場合は、排卵誘発剤を使用すると排卵を促して排卵日が予測しやすくなります。
ストレスやメンタルの管理
ストレスやメンタルの管理も、人工授精の成功率をあげるための大切な要素です。
過剰なストレスを感じるとコルチゾールというホルモンが分泌されて、不眠症やうつ病、生活習慣病などの疾患になる可能性があり、身体のホルモンバランスも乱れます。
精子の状態の悪化や受精卵の着床に影響する場合もあり、妊娠率が低下することにつながります。
ストレスを溜めないように、リラックスできる方法を見つけましょう。
また、パートナーとのコミュニケーションを大事にして、精神的に支え合いメンタルが安定することで、不妊治療がスムーズに進むようになる効果も期待できます。
人工授精のメリット

人工授精にはメリットが多く存在します。
妊娠を望んでいる方にとって、人工授精を始めやすいメリットについて解説します。
身体の負担が少ない
人工授精は、身体への負担が少ない不妊治療です。
精子の注入をするカテーテルは細く、挿入時に痛みはほとんどありません。
人工授精にかかる時間は10〜15分ほどで、時間もかからないため、身体の負担が少なく済むでしょう。
自然妊娠に近い
人工授精で医師が処置をするのは、精子を注入するときのみで、精子が卵子に出会う確率を上げるところまでです。
その後、受精した場合は自然妊娠と同様に着床するため、医師が介入するわけではありません。
人工授精は受精までを助けることになり、自然妊娠に近い形で妊娠できるのがメリットです。
適応範囲が広い
人工授精は適応範囲が広く、不妊に悩む方にとって選択しやすい治療方法です。
前述のように、精子の質が基準値に満たない場合や頸管粘液の問題、性交障害などさまざまなケースに対応できます。
タイミング法からの移行もしやすいため、多くの方がチャレンジしやすいのではないでしょうか。
費用が抑えられる可能性がある
人工授精は、不妊治療の中でもコストが抑えられる可能性があります。
2022年4月より保険適用が可能になり、検査に適用される場合もあるため、経済的に負担が軽くなりました。
ただし、治療開始時に女性の年齢が43歳未満であることという年齢制限があるため、注意が必要です。
検査内容や医療機関によって異なりますが、人工授精にかかる保険適用時の自己負担額の目安は、5,000〜7,000円ほどの負担になります。
具体的な費用については、クリニックに確認してみましょう。
人工授精のデメリット

人工授精にはさまざまなメリットがある反面、デメリットもあります。
メリット・デメリットの両方を理解して、人工授精を検討してください。
成功率は体外受精よりも低い
人工授精の成功率は5〜10%で、30歳未満の体外受精の成功率である約40%以上と比較すると低くなります。
しかし、36〜42歳になると約20%、43歳以上は約17%となり、高齢になるほど体外受精も難しくなっていきます。
(参照:「2022年ARTデータブック」日本産科婦人科学会)
人工授精の成功率は高くないため、複数回行う可能性があり、経済的に負担がかかったり、結果が出ないことでストレスになったりする方も少なくありません。
3〜4周期を終えて妊娠が確認できなかったら、次のステップを検討してみましょう。
スケジュール管理が必要
人工授精は一定の周期で複数回の治療を行うため、スケジュールの管理が必要です。
身体への負担が少ないとはいえ、定期的な通院や治療を続けることで生活への影響が出てしまう可能性があります。
多胎妊娠の可能性がある
人工授精で排卵誘発剤を使用する場合、双子以上の多胎妊娠の可能性がわずかに高まるとされています。
複数の卵子が排出され受精するケースがあり、妊娠率の上昇とともに多胎妊娠の確率も上がることになります。
多胎妊娠は母体や胎児にリスクが生じるため、妊娠中には慎重な管理が必要です。
副作用のリスクがある
人工授精には、副作用が現れるリスクがあります。
- 出血
- 感染症
- 腹膜炎
- 卵巣過剰刺激症候群
カテーテルを挿入する際に出血が起こることもありますが、数日で治まるものならば心配はいりません。
大量の出血や、痛みを伴い長く出血が続くなどの症状がある場合は、クリニックを受診しましょう。
人工授精に使われる精液は洗浄してから使用しますが、完全に殺菌できない可能性もあり、感染症を引き起こすケースもあります。
まれにカテーテル挿入時に雑菌が入り子宮や卵管で感染が起こり、炎症が腹腔内に広がることがあります。
子宮内膜症やクラミジア感染の既往がある方は、腹膜炎になりやすいため注意が必要です。
卵巣過剰刺激症候群(OHSS)は、排卵誘発剤を使用して多くの卵胞が発育した場合に、卵巣が腫れて腹水が溜まった状態です。
多嚢胞性卵巣症候群の方はリスクが高いとされていて、発生率は低いですが重症になると命に関わることもあります。
腹水の他にも呼吸困難や激しい腹痛などの症状がある場合、すぐにクリニックを受診してください。
まとめ
人工授精は、タイミング法の次のステップとして選択する方も少なくありません。
成功率は高くはありませんが、自然妊娠に近い形で身体への負担が少ないことも、試しやすい理由のひとつです。
生活習慣を整えて卵子や精子の質を向上させたり、排卵誘発剤の使用をしたりすることで、成功率をあげることも期待できます。
女性の年齢も成功率に大きく関わるため、なるべく早く治療に取り組むことが重要です。
メリット・デメリットをきちんと理解して、納得したうえでご自身に合った不妊治療を選びましょう。
三軒茶屋ウィメンズクリニックでは、日本産科婦人科学会認定 産婦人科専門医、日本生殖医学会認定 生殖医療専門医の資格を持つ院長とともに、スタッフ一同が患者様に寄り添う産婦人科を目指しています。
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