不妊治療で「原因不明」と言われたら?考えられる原因と治療の選択肢を徹底解説

不妊治療を続けているのに、検査では「異常なし」。
それでも妊娠に至らないとき、医師から「原因不明の不妊」と告げられ、戸惑いや不安を感じる方は少なくありません。
「何が原因なんだろう?」「これからどうすればいいの?」と、見えない壁に立ち止まってしまうこともあるでしょう。
実は、検査で異常が見つからないからといって、原因がまったく存在しないわけではありません。
この記事では、原因不明不妊とは何か、その背景にある可能性や追加で検討できる検査・治療の選択肢について、わかりやすく解説します。
不安な気持ちを少しでも軽くし、前に進むためのヒントになれば幸いです。
原因不明の不妊とは?定義と現状

不妊治療では、まず不妊の原因を明らかにし、それに適した治療を行うのが基本です。
では、原因不明の不妊とはどのような状態を指すのでしょうか。また、それはまれなケースなのでしょうか。
これらの疑問にお答えします。
原因不明の不妊とは
原因不明の不妊とは、基本的な不妊検査を一通り受けたにもかかわらず、明確な原因が見つからない状態をいいます。
不妊症には、男性側に原因がある『男性不妊』、女性側に原因がある『女性不妊』、そして男女の双方に原因がある場合など、さまざまなパターンがあります。
そのため、不妊検査はパートナーと一緒に受けることが重要です。
検査では、女性は血液検査(ホルモン検査)や超音波検査、男性は血液検査(ホルモン検査)や精液検査などを受けるのが一般的です。
このような基本的な不妊検査を行っても異常が見つからなかった場合、原因不明の不妊と診断されます。
原因不明の不妊の割合
原因不明の不妊は、決してめずらしいものではありません。
実際、不妊症と診断されたカップルのうち、およそ10%〜20%が原因不明不妊に該当するとされています。
不妊症の原因は非常に多岐にわたり、現在の医療技術をもってしても、すべてを明らかにできるとは限りません。
そのため、検査で異常が見つからなくても、実際には何らかの原因が潜んでいる可能性があるのです。
医師から「原因不明」と告げられると、不安や戸惑いを感じるかもしれませんが、同じような状況にあるカップルは少なくありません。
まずは落ち着いて、今できることに目を向けていきましょう。
実は原因が隠れていることも|考えられる要因とは

「原因不明」と診断されても、実際には現在の医療検査では見つけにくい原因が潜んでいる可能性があります。
つまり、検査で異常が見つからなかったからといって、妊娠を妨げる要因がないとは限らないのです。
ここでは、原因不明不妊の背景に隠れている可能性のある要因を、代表的なものに絞って紹介します。
卵子の質の低下
原因不明不妊の背景として、卵子の質の低下が関係している可能性があります。
女性の年齢とともに卵子の質は自然に低下し、染色体異常などにより受精や着床がうまくいかないことがあります。
基本的な不妊検査では卵子の質までは評価できないため、年齢が上がるほどこうした要因が隠れていることがあるのです。
精子の機能障害
精液検査で数値上の異常が見られなくても、精子の機能に問題があるケースがあります。
妊娠の成立には、精子が子宮から卵管を通って卵子のいる『卵管膨大部(らんかんぼうだいぶ)』までたどり着き、さらに卵子の外側にある膜(透明帯)を突き破って侵入する力が必要です。
しかし、精子の運動能力が不十分だと目的地まで到達できず、たどり着いても卵子にうまく侵入できません。
また、精子のDNAに異常があると、たとえ受精が成立しても、その後の発育がうまく進まない場合があります。
このように、見た目の数値だけではわかりにくい精子の質の問題が、原因不明不妊の背景にあることもあるのです。
卵子のピックアップ障害・卵管周囲癒着
卵子のピックアップ障害は、卵管が排卵された卵子をうまく取り込めないことで妊娠の成立を妨げる原因のひとつです。
卵管は、排卵された卵子と精子が出会い受精するための大切な器官です。
なかでも卵管の先端にある『卵管采(らんかんさい)』には、卵子をキャッチして卵管内へ取り込むという重要な役割があります。
しかし、何らかの原因でこの卵管采の動きや位置に異常があると、排卵された卵子をうまく取り込めず、受精のチャンスを逃してしまうことがあるのです。
これが『卵子ピックアップ障害』です。
特に卵管の周囲に軽度の癒着があると、卵管采の動きが制限され、ピックアップ障害を起こしやすくなります。
これらの異常は卵管自体が詰まっているわけではないため、子宮卵管造影検査などでは異常が見つかりにくいのが特徴です。
機能的な問題として見逃されやすく、結果として「原因不明不妊」と診断されることも少なくありません。
軽度の子宮内膜症
軽度の子宮内膜症も画像検査では見つかりにくく、原因不明不妊と診断されることがあります。
子宮内膜症とは、本来は子宮の内側にあるはずの子宮内膜組織が、卵巣や腹膜など子宮以外の場所に発生する疾患です。
症状が進行すると、骨盤内で炎症が起こったり、卵巣・卵管・腸などの臓器同士が癒着したりすることがあり、卵子の排出や受精卵の通過を妨げてしまうことがあります。
着床障害
受精卵が子宮に到達しても、着床がうまくいかなければ妊娠にはつながりません。
着床障害の原因としては、子宮内膜の受容性の問題や胚(受精卵)側の染色体異常などが考えられます。
例えば、子宮内膜ポリープや粘膜下筋腫などの疾患がなくても、着床環境に問題があることがあり、こうした着床の問題が原因不明の不妊の一因となっている可能性があります。
原因不明の不妊で行われる検査

原因不明の不妊と診断された場合でも、検査では見つかりにくい異常が隠れていることがあります。
そうした隠れた要因を探る方法のひとつが、腹腔鏡検査です。
腹腔鏡検査とは
腹腔鏡検査とは、腹部に小さな切開をして内視鏡を挿入し、子宮・卵管・卵巣などを直接観察する検査で、通常の画像検査では見つけにくいような異常を確認できるのが特徴です。
例えば、以下のような不妊の原因となる要素は子宮卵管造影検査では異常が見つかりにくいものですが、腹腔鏡検査であれば発見できる場合があります。
- 卵子のピックアップ障害
- 軽度の卵管周囲癒着
- 軽度の子宮内膜症
さらに、腹腔鏡検査では異常が見つかればその場で癒着の剥離などの治療(手術)を同時に行えることも大きな利点です。
腹腔鏡検査の効果
腹腔鏡検査で卵管采の癒着が見つかり、癒着を剥がす手術を受けた35歳以下の女性の約半数が、手術後1年以内に自然妊娠(人工授精含む)に至ったと報告されています。
なお、術後1年経過しても妊娠に至らない場合は、体外受精や顕微授精などへのステップアップを検討することになります。
不妊治療のステップ|原因不明の場合

原因不明の不妊治療は、一般的に『タイミング法』→『人工授精』→『体外受精』→『顕微授精』の順にステップアップしていきます。
まずは体への負担が少なく、自然妊娠に近い方法から始め、それでも妊娠が成立しない場合には、より専門的で高度な治療へ進むのが一般的です。
ここでは、それぞれの不妊治療について簡単に解説します。
タイミング法
基礎体温や超音波検査をもとに排卵日を予測し、そのタイミングに合わせて性行為を行うことで、自然妊娠を目指す治療法です。
必要に応じて排卵誘発剤を使用することもあります。
基本的な不妊検査は異常が見つからない場合、また自然に近い形での妊娠を希望するカップルに適しています。
数ヶ月〜6ヶ月くらい試してみて、それでも妊娠に至らない場合には、次の治療へのステップアップが検討されるのが一般的です。
人工授精(AIH)
人工授精は、排卵の時期に合わせて採取した精子を、カテーテルを用いて子宮内に直接注入する治療法です。
自然妊娠では、精子が膣から子宮へ進み、卵子と出会う必要がありますが、人工授精では精子が子宮に直接届けられるため、卵子と精子が出会う確率が高まります。
医師が行うのは精子を注入するところまでであり、その後の受精・着床といった過程は自然妊娠と同様です。
精子の数が少ない、運動性にやや問題があるなど軽度の男性不妊に効果的とされ、タイミング法で結果が出なかった場合に検討されます。
カップルの希望や医師の判断にもよりますが、通常は3〜6回程度試み、妊娠に至らない場合は、体外受精へのステップアップが勧められることが多いです。
体外受精(IVF)
体外受精は、採取した卵子に精子をふりかけて受精させ、受精卵を体外で培養したのち、発育の良い胚(はい)を子宮内に戻す治療法です。
以下のようなケースで選択されることが多くなります。
- 人工授精を複数回行ったものの妊娠に至らなかった場合
- 卵管が閉塞や通過障害がある場合
- 子宮内膜症の診断がある場合
- 重度の男性不妊が疑われる場合
- 女性の年齢が高く、早期の妊娠を希望する場合
1回の治療周期は約1〜2ヶ月で、3〜4回程度挑戦するケースが一般的です。
顕微授精(ICSI)
顕微授精は体外受精の一種で、顕微鏡を使いながら1個の精子を選び、卵子の中に直接注入して受精を助ける治療法です。
通常の体外受精では卵子に精子をふりかけることで自然な受精を促しますが、精子の数が極端に少ない場合や、受精障害が疑われる場合には、受精そのものが成立しないことがあります。
その点、顕微授精では精子を直接卵子に注入するため、受精の可能性を高められるのがメリットです。
顕微授精は、以下のようなケースで検討されます。
- 体外受精で受精がうまくいかなかった場合
- 精子の数が極端に少ない場合
- 精子の運動性や形態に問題がある場合
- 受精障害が確認された場合
1回の治療周期は体外受精と同様に約1〜2ヶ月で、妊娠に至るまで複数回取り組むケースが一般的です。
まとめ
不妊の原因が見つからないと、「なぜ妊娠できないのか」と悩みや不安が大きくなりがちです。
しかし、原因が見えにくいとはいえ、実際には軽度の子宮内膜症や卵子のピックアップ障害、精子の機能的な異常などが関与しているケースもあります。
原因不明とされる不妊でも、タイミング法から人工授精、体外受精、顕微授精まで、段階的に進めることで妊娠の可能性が高まることは少なくありません。
また、必要に応じて腹腔鏡検査などの精密検査によって、見えにくかった原因が明らかになることもあります。
三軒茶屋ウィメンズクリニックでは、原因不明のケースを含め、一人ひとりに合わせた不妊治療を丁寧に行っています。
「検査では異常がないのに、妊娠しない」とお悩みの方は、どうぞお気軽にご相談ください。